地球ドラマチック 野生の雌ヒョウ マナナ
地球ドラマチック 野生の雌ヒョウ マナナ
絆を深めた17年間の生涯 ①~③をまとめました。
泣きました・・・。
自然界はなんて厳しいのだろうか。
17,000ヘクタールの草原に謎に満ちた大型ネコ科動物のヒョウが20匹以上生息しています。
動物カメラマンのジョン・ヴァーティーは 、一匹の雌のヒョウに注目し彼女の一生を カメラに収めました。
その雌のヒョウの名前はマナナ。
時にマナナは狩りに同行することを許してくれます。
マナナの狩りに同行するジョン
ジョンとマナナの絆が深まるきっかけは、マナナが生まれる10年以上のある出会いでした。
1979年ジョンと仲間のエルモンはあるヒョウの通り道を辿っていました。
彼らは謎の多いこの大型動物をカメラに収めるのに苦労していました。
しかし、その日はついていました。
母親とその子供たちがいたのです。
画像はマナナのお母さん(左)とマナナのおばあさん(右)
人間を察知するとたいていの母親はその子供たちを隠してしまします。
しかしこの時は違いました。
母親のヒョウは特に警戒することもなく、
彼らが子供たちを撮影しても平気だったのです。
ジョンはこの雌のヒョウ(マナナのおばあさん)に注目し、
彼女の一生をカメラに収めようと決心しました。
それから12年間にわたりジョンはこの雌のヒョウ(マナナのおばあさん)の生態を克明に撮影しました。
ジョンは言います。
→「あのヒョウは人間とヒョウが親しくできるという事を初めて教えてくれた存在でした。
彼女は秘密の扉を開けてヒョウの世界を私に見せてくれました。」
しかしある夜 ジョンはその世界が引き裂かれるのを目撃します。
ライオンが獲物をしとめた彼女を追っています。
この時彼女は致命的なしくじりをします。
獲物を木に引っ張り上げたのですが、位置が低すぎたのです。
体の大きいライオンは高いところまで登ることはできません。
しかし体重およそ150㎏のこのライオンは低い木をよじ登り、
彼女、雌ヒョウに迫ってきたのです。
追い詰められた雌ヒョウは地面に飛び降りるしかありませんでした。
木の下には2匹の雄ライオンが控えています・・・。
夜明けを迎え、ジョンとエルモンは雌ヒョウの縄張りで恐れていたものを目撃します。
彼らの雌ヒョウは無残にも傷つき死にかけていたのです。
傷は骨にまで達していました。
傷ついた雌ヒョウが死んでいくのを彼らは見ているしかありませんでした。
ヒョウの世界へと開かれた窓は閉じてしまいました。
ジョン達が次に追い求めたのは死んだ雌ヒョウの子供たちでした。
しかし子供たちの性格は母親とはかけ離れていました。
気まぐれで攻撃的なため慎重に後を付けなければいけません。
ある日彼女が狩りに出かけた隙に、巣穴を確かめるまたとないチャンスが訪れました。
ジョンがそこで見つけたものは彼の人生を変えることになります。
生後10日ほどの雌の子どもでした。
ジョンはその子供をマナナと名付けました。
かわいい子どものころのマナナ
ヒョウの世界への窓が再び開いていきます。
雌のヒョウは狩りをしながら単独で子育てをします。
そのため生まれたばかりの子どもたちは、しばしば無防備なまま巣穴に置いていかれます。
ライオンやハイエナは競争相手を減らすために他の捕食動物の子どもを殺します。
無防備なヒョウの子どもはたやすい標的です。
しかし、幸いにも茂ったやぶと河川敷の岩が要塞のようにこの巣穴を守っていました。
マナナともう一匹の兄弟は遊びながら存分に狩りの稽古をすることができました。
目新しい生き物は子供たちに狩りの本能を芽生えさせます。
しかし木登りはもう少し練習が必要です。
練習を重ねるうちにだんだんと上手になっていくのがわかります。
やがて木々は子供たちのお気に入りの遊び場となりました。
あらゆる生き物が狩りの対象となります。
成長するにつれて狙う獲物も大きくなりました。
一年経つとヒョウは大人のレイヨウを一人でしとめられる様になります。
レイヨウ
大人のヒョウは自分の縄張りを持ち、木々の上を住処として暮らします。
木々が茂り、多様な動物が生息する保護区はヒョウにとって申し分ない環境です。
しかし獲物の多いところにはライバルの捕食動物も現れます。
一人立ちしたばかりのマナナにとって獲物を取るのは最初のハードルにすぎません。
ここでは捕った獲物を手放さずにいることのほうがはるかに難しいのです。
ハイエナたちは獲物を横取りするためならどんなことでもします。
マナナは獲物をしとめた数秒後に凶暴な集団に取り囲まれたのです。
一人で相手をするのは無理だと判断し、その場を離れました。
この獲物はハイエナたちに横取りされました。
しかしその直後ハイエナたちが争い始めました。
ハイエナの食事には厳格な上下関係があり、大勢が一つの獲物に集中すると下位のものが排除されます。食事をめぐる争いはどんどん激しくなりました。
一瞬の隙に忍び寄ってマナナは獲物を取り返します、そして近くの木に駆け登ります。
ハイエナたちが気づく前にハイエナたちが登って来られない高さまで獲物を引き上げることに成功しました。
ご馳走にありついたマナナ。
執拗に見張り続けるハイエナたちを尻目に、この夜はたっぷりと食べることができました。
肉をあさるハイエナはヒョウなど大型ネコ科動物の後を付けて回り、盗めるチャンスを見逃しません。
ハイエナたちとの戦いはマナナが生きていくうえで避けて通れない試練なのです。
若いヒョウはしとめた獲物を捕食動物から守ることの難しさを学びます。
マナナが4歳で母親になると、試練はそれだけでは済まなくなりました。
捕食動物が絶えず子供の命を脅かすからです。
ここ クルーガー国立公園ではヒョウの子供の およそ半数が捕食動物に殺されます。
マナナは、なかなか優秀な母親です。
彼女の巣穴は外から全く見えません。
その上マナナは数日ごとに子供たちを移動させ、捕食動物に突き止められないようにしていました。
臭いで感づかれないように同じ巣穴に長くはとどまりません。
優秀な母親、マナナは知恵を絞り懸命に子育てをしています。
しかし そんな マナナの知恵でも勝つ事ができないある脅威がマナナに迫っていました。
その恐ろしさをかつての経験からジョンは嫌というほどわかっていました。
ジョン→マナナに出会う前に観察していたヒョウが
"ヒゼンダニ症"にかかってしまいました。
ダニに皮膚をくわれ死んでいく病気です。
その時私は、自然の摂理に介入すべきでないと考え、症状が悪化していくのをただ見つめ、死ぬまで撮影していました。
ヒョウの亡骸を撮影しながら自分には救えたのに死なせてしまったと後悔したのです。
その"ヒゼンダニ症"にマナナと2匹の子どもたちが感染していることが分かったのです。
"ヒゼンダニ症"は自然界では死刑宣告に等しいものです。
しかし今回ジョンたちはマナナと2匹の子どもが、 このまま死んでいくのを見ていることはできなかったのです。
"ヒゼンダニ症"の治療薬を与えればマナナと子供たちを救うことができます。
ただし、それには薬を矢で打ち込む必要があります。
マナナは茂った木立にいました。
子供の一方は近くの地面にいます。
もう一方は低い木の上です。
素早く行わなければマナナが身の危険を感じて反撃してくるかもしれません。
ジョンは慎重に素早く矢を放ちました。
ジョン→矢が当たった瞬間マナナは生涯に数回しか見せなかった怒った顔を私に見せました。
危険を冒したかいがありました。
3週間後マナナと子供たちはすっかり元気になっていました。
よかったぁ
ジョンの決断によってマナナの寿命はは10年以上も伸びることになりました。
(*野生のヒョウの寿命は12~15年)
そして子供たちも無事、大人になり一人立ちして行ったのです。
しかし次に生まれた子供たちは幸運には恵まれませんでした。
彼女の縄張りに新たな敵が現れました。雄のヒョウたちです
縄張りを主張する雄のヒョウたちは、自分以外のヒョウの子どもたちを殺します。
ロンドロジ動物保護区では敵対する2匹の雄が互いの子どもたちを次々に殺しました。
雌に自分の子どもを産まるためです。
マナナは2度目の出産で生まれた2匹の子どもを失った後、彼女なりの作戦に出ます。
彼女は一方の雄を誘い出し交尾に誘いました。
交尾を繰り返すと雌の体に排卵が起こり、妊娠する可能性が高まります。
次に彼女は自分の縄張りを横切りもう一方の雄を探しに行きました。
そして同じことをもう一度繰り返したのです。
これならどちらの雄も生まれたのは自分の子どもだと思うでしょう。
驚くべき戦略です。
このような行動をとる雌のヒョウはほとんど観察されたことがありません。
マナナは母性の強いヒョウです。
そしてお利口さんです。
だからマナナに惹かれるのでしょう。
野生のヒョウは普通は1度に2~3匹の子どもを生みます。
1匹しか生まれなった場合ライオンなどは、より多くの子どもを産むために育児放棄をすることがあります。
しかしマナナはたった1匹のわが子を育てることに決めました。
巣穴は周囲から近づきにくい岩場にあり棘のある木々がガードしています。
マナナは子供を岩陰に隠し狩りに出かけます。
しかしこの時、獲物を探しているのはマナナだけではありませんでした。
巣穴の堅い守りを潜り抜ける捕食動物がいました。
それは音もなく動き出しました。
マナナは狩りに気を取られています。
狩りは失敗に終わりマナナは巣穴に戻りました。
彼女は優しい声を出して子供を呼びます。
しかし何の反応もありません、様子が変です。
マナナは一瞬で敵に気づきました、ニシキヘビです!!!
体にヒョウの子どもくらいの大きさの膨らみがありました。
マナナは自らの命を懸けて、わが子を殺した相手に攻撃をかけます。
傷を負ったニシキヘビは棘のあるやぶの中に逃げ込みました。
しかしマナナはけっして諦めようとはしません。
それから3時間マナナは岩場の上に座りニシキヘビがいる穴を見張り続けました。
彼女の粘りはついに報われました。
ニシキヘビが再び動き出したのです。
気配を察し待ち構えるマナナ。
しかし戦いにはなりませんでした。
マナナの前で丸のみにした獲物(マナナの子ども)を吐き出したからです。
緊迫した状況におかれたニシキヘビは素早く逃げるために身軽になろうとしたのです。
マナナは攻撃をやめました。
死んでしまった我が子を取り返したからです。
ジョン→ニシキヘビが子供を吐き出した後、私はマナナがニシキヘビを追いかけて殺すだろうと思いました。
ところが仕返しはありませんでした。
彼女の望みは小さな我が子を取り戻すことだけだったのです。
野生のヒョウは決して本能のままに行動するだけじゃない。
豊かな感情を備えた動物なのだと私は思います。
マナナは死んだ我が子をくわえ巣穴から離れた場所に運んでいきました。
そして思いがけない行動をとったのです。
それはわたしがマナナと過ごした17年のうち最も心を揺さぶられた場面のひとつでした。
マナナは我が子の亡骸を食べ始めたのです。
そうすることで死んでしまった我が子を弔っていたのだと私は信じています。
それから4日間も彼女は死んだ我が子を呼び続けていました・・・。
私はもう涙涙涙・・・・
マナナの鳴き声が耳から離れません。
死んでしまったマナナの子ども(生後まもなくの頃)
ジョン→そのようなマナナにカメラを向けるのはつらい事でした。
胸を切り引かれるような思いをしました。
しかし子供を亡くすことは全てのヒョウに突き付けられる運命です。
マナナが生んだ8匹の子どもの内、無事大人になったのは4匹だけです。
マナナはいつまでも嘆いてはいられません。
生きていかなければならないのです。
そのためには狩りをしなければなりません。
高さ15mの木の上で彼女はなにか獲物になりそうなものはないか目を凝らします。
群れから離れた1匹のインパラにマナナは狙いを定めました。
すべてはタイミングにかかっています。
やすやすとしとめているように見えますが飛び降りながらの攻撃は滅多に見られません。
条件が揃う必要があるからです。
獲物との距離、飛び降りるタイミング、正確な動き、マナナは完璧でした。
一刻も早く獲物を地面から引き上げねばなりません。
しかし、木の上も常に安全とは限りません。
近くにライオンがいます。
ここアフリカではヒョウの最大の敵です。
ライオンはヒョウの3倍も体が大きく、ハイエナと違って木に登ることができます。
マナナの祖母はライオンに襲われて死にました。
マナナもまた同じような窮地に立たされています。
マナナは獲物を置いて出来るだけ高い場所に避難しました。
獲物を守ろうとするのは自殺行為です。
ライオンたちに横取りされるのを黙って見ているしかありません。
更に別のライオンもやってきました。
数が多くなると状況は変わってきます。
腹をすかせた群れが1片の肉をめぐって争い始めました。
逃げるなら今です!
ライオンたちが争いに気を取られている隙に、マナナはその場を離れました。
狩りはやり直しです。
ひとつのチャンスを失った後に別のチャンスがやってきました。
チーターが狩りをしています。
チーターとヒョウは体の大きさは互角ですが狩りの仕方はそれぞれ全く異なります。
こちらがチーター。
流線型の体と自足100㎞の走りが自慢です。
(女性の体みたいですね)
一方ヒョウは忍び足と強靭な一撃を強みとしています。
チーターの獲物を奪い取ることができるかもしれません。
獲物を食べているチーターに忍び寄るマナナ。
マナナに威圧されチーターは去っていきます。
ヒョウは勝てる戦いしか仕掛けません。
ただし例外が1つあります。
それは縄張りをめぐる争いです。
雌のヒョウは獲物、住処、巣穴をめくって死ぬまで戦う事があります。
マナナは最盛期には恐るべき戦士でした。
彼女はこのあたりの最も良い場所を縄張りとしていました。
しかしその場所を維持するには頻繁に戦わなければなりません。
ひどい傷を追う危険もあります。
心配そうにカメラを通してマナナを見つめるジョン。
年月が経つにつれてマナナはそうした傷が堪えるようになってきました。
今や彼女は16才の老いたヒョウです。
大抵の野生のヒョウより4年以上長く生きています。
もうかつてのように激しく戦うことはできません。
若いメスがマナナの近くを平気で歩き回っています。
自分の臭いをつけ1番いい場所を横取りしようとしているのです。
マナナはそれをただ見ているしかありません。
聞き慣れた唸り声。
ハイエナたちが何かの獲物を奪おうとしているのでしょう。
年老いたマナナはハイエナたちのおこぼれにありつき生き延びる足しにしています。
いつものようにハイエナたちはエサをめぐって激しく争っています。
ジョン→マナナは自力で狩りをすることが難しくなり、こうやっておこぼれをもらうことが多くなりました。
隙を見てバラバラに恥った肉の一切れをくわえ素早く木に飛び上がる作戦です。
しかしハイエナがたくさんいるうちはそれも無理でしょう。
それはマナナにとってあまりにきけんな綱渡りです。
肉を奪えば確かに生き延びられますが、ハイエナたちは容赦なく攻撃してくるに違いありません。
結局マナナはどうする事もできませんでした。
ハイエナたちが去った後マナナは骨一つでも小さな肉のかけらでもないかと探し続けていました。
しかし残っているのは小さなな骨と血だけでした。
大した食事にはなりません。
更に6ヶ月が経過しました。マナナはもうすぐ17才です。
ジョンは定期的にマナナの様子を見に通っています。
マナナは木の上からなにかを見つめていました。
今のマナナはどんな小さなものでも捕まえられるものなら何でも食べます。
ジョン→若い頃とても敏速で強かったマナナですが17才が近づいた今小さな獲物を捕まえるしかないと自分でもわかっているのでしょう。
今日、彼女はオオトカゲを捕まえました。
生き延びるために今も持てる力の全てを使っています。
彼女はもう長くはないでしょう。
ジョンhはマナナのそばに座ろうと思いました。
おそらくこれが最後のチャンスです。
ゴロンと横たわるマナナ、嬉しそうなジョン
ジョン→「よーし、いい子だ」
あと数週間でマナナは17歳になります。
人間の85歳に相当する。野生のヒョウとしては記録的な年齢です。
ジョンが口で出す音はマナナが子どもをあやす時の音に似ています。
ジョンは何度もマナナに、マナナの鳴き声の真似をしながら「いい子だね」と語りかけます。
ジョンはマナナを恐れずマナナもジョンを恐れません。
そこには確かな信頼の絆があるのです。
野生のヒョウのそばに人間が横たわるなど、普通ではありえないことです。
しかし、ジョンにはそれがマナナと過ごす残り少ない時間だとわかっていました。
まもなくジョンがとこにもマナナを見つけられない日がやってきました。
ジョンは悟りました。
ジョン→マナナは逝ってしまったのだと。
ロンドロジ保護区の薮に行く度、木々の周りを調べ、どこかにマナナはいないかと思うんです。
しかしあの素晴らしいヒョウはもうこの世にはいません。マナナとの絆を深めた17年間は私にとって特別なものでした。
幼い彼女の目を見つめたあの最初の瞬間から彼女の死を悟った最後のその日まで・・・。
幼い日のかわいいマナナ
マナナ、ありがとう。(終わり)
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